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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2702号 判決 1961年1月21日

第二六一四号事件控訴人・第二七〇二号事件被控訴人(第一審原告) 甘糟産業汽船株式会社

第二六一四号事件被控訴人(第一審被告) 芝税務署長

第二七〇二号事件控訴人(第一審被告) 東京国税局長

訴訟代理人 加藤宏 外二名

主文

第一審原告甘糟産業汽船株式会社の控訴を棄却する。

原判決中第一審被告東京国税局長敗訴部分を取り消す。

第一審原告甘糟産業汽船株式会社の第一審被告東京国税局長に対する請求を棄却する。

第一審原告甘糟産業汽船株式会社と第一審被告芝税務署長間の控訴費用、同第一審原告と第一審被告東京国税局長間の第一、二審を通ずる訴訟費用はすべて同第一審原告の負担とする。

事実

第一審原告代理人は、昭和三四年(ネ)第二、六一四号事件につき「原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。第一審被告芝税務署長が第一審原告に対し昭和三十年五月(日不詳)なした第一審原告の昭和二十六年(事業年度)以降の青色申告書提出承認の取消処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告芝税務署長の負担とする。」との判決を、昭和三四年(ネ)第二、七〇二号事件につき、控訴棄却の判決を求め、第一審被告芝税務署長代理人は、昭和三四年(ネ)第二、六一四号事件につき、控訴棄却の判決を求め、第一審被告東京国税局長代理人は、昭和三四年(ネ)第二、七〇二号事件につき、「原判決中第一審被告東京国税局長敗訴部分を取り消す第一審原告の第一審被告東京国税局長に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、第一審原告代理人において、「第一審被告芝税務署長のなした本件青色申告書提出承認取消処分を第一審原告に通知した書面(甲第二号証)には日附として、「昭和三〇年五月 日」と記載されており、日附が五月何日であるかが不明である。このような日附不明の書面をもつて第一審原告に通知した第一審被告芝税務署長の本件青色申告書提出承認取消処分は、重大な瑕疵があるものというべく、違法な処分として取り消さるべきものである。すなわち、第一審原告は昭和二十六年一月一日より同年十二月末日までの事業年度につきなした課税標準たる所得金額等の申告につきなされた政府の更正処分が違法であるとして、これが取消を訴求し、東京地方裁判所昭和三四年(行)第一五号事件として係属している。しかして右更正処分通知書にも「昭和三〇年五月 日」と記載されており、日附の記載がない。しかして右更正処分通知書、本件青色申告書提出承認取消通知書は、ともに昭和三十年六月一日に第一審原告に送達されたものであるが、そのいずれが先に第一審原告に送達されたか不明である。もし、本件青色申告書提出承認取消処分が更正処分の後になされたとすれば、更正処分は青色申告書提出承認の効力存続中になされたもので、更正処分は、その理由だけでも違法となる。このような重大な意義を有する日附が記載されていない本件青色申告書提出承認の取消処分通知書によつてなされた処分は、無効であるか、又は多くとも取消に値する違法な処分である。」と述べ、第一審被告芝税務署長代理人は、「本件青色申告書提出承認の取消処分通知書に第一審原告主張のとおり日附の記載がなかつたことは争わない。しかしながら行政処分の告知された日が明らかである以上、行政処分通知書に日附が脱漏していたことは、軽微な瑕疵であり、行政処分取消の原因たり得ないものである。しかのみならず、先行処分と後行処分のなされた日時が明らかでない場合には、先行処分は後行処分の先になされたものと認めるのが相当であるから、本件青色申告書提出承認の取消処分は更正処分のなされるに先立つてなされたものと認めるべきである。仮に更正処分が先になされたとしても、後になされた青色申告書提出承認取消処分によつて、更正処分の瑕疵は治癒されたものと解すべきである。」と述べ、第一審被告東京国税局長代理人は、「本件審査決定に附記すべき理由は、審査の請求が期間徒過などの理由で不適法であるか、請求の内容に入つて、請求の理由がないものであるかを請求人に判別せしめる程度に記載すれば足りるものであつて、その判断のよつて来つた経過までを詳記する必要はないものと解すべきであるから、本件審査決定に附記された理由は、法人税法所定の要件を充足するものである。仮に本件審査決定に附記された理由が不備であつたとしても、抗告訴訟が提起されれば、第一審被告東京国税局長は法人税法第三十八条によつて審査決定が合理的であることを主張しなければならないから、第一審原告はこの段階において決定の理由を詳細に知ることができるのであるから、理由不備のために第一審原告が不利益を受けることにはならない。又本件青色申告書提出承認取消処分が適法である以上、右原処分の審査決定だけを取り消すことは許されないものである。このような場合、審査決定だけを取り消す公益上の必要はないから、審査決定の附記理由に不備があつてもこれを取り消すことはできないものである。」と述べた外、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(証拠省略)

理由

第一審原告が船舶解撤、故鉄販売等を業とする株式会社であること、第一審原告が昭和二十五年法律第七十二号法人税法に基いて所轄税務署長に対しなした青色申告書提出の承認の申請につき当該事業年度終了の日である昭和二十五年十二月三十一日までに、右承認申請の承認又は却下がなかつたので、右申請は承認されたものとみなされたこと、第一審原告は昭和二十五年一月一日から同年十二月三十一日までの事業年度から、昭和二十九年事業年度まで、毎事業年度につき、青色申告書により申告納税してきたこと、第一審被告芝税務署長が昭和三十年五月、日附不詳の通知書により昭和二十六年一月一日から同年十二月三十一日までの事業年度以後青色申告の承認を取り消し、右通知書が昭和三十年六月一日第一審原告に送達されたこと、これに対し第一審原告は昭和三十年六月二十二日第一審被告東京国税局長に対し異議の申立をなしたこと、第一審被告東京国税局長が昭和三十三年一月十三日附で審査請求棄却の決定をなし、同月十七日該決定が第一審原告に送達されたことは当事者間に争のないところである。

しかして第一審被告らは、第一審原告が前段認定の如く青色申告書提出申請の承認があつたものとみなされたことにより、昭和二十六事業年度分法人税について確定申告書を所轄説務署長に提出したが、その後の東京国税局収税官吏の調査により、第一審原告は昭和二十六事業年度の帳簿書類に、各勘定科目にわたり取引があるのに記載せず、又は真実と異なる記載をなし、結局その帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実の記載があることが判明したので、第一審被告芝税務署長は昭和三十年六月一日に第一審原告に送達された通知書によつて、当時の法人税法第二五条第七項第三号(現行法人税法第二五条第八項第三号)により、昭和二十六事業年度に遡つて青色申告書提出の承認を取り消したものであると主張するところ、第一審原告は、右第一審被告ら主張事実を否認し、第一審被告らの指摘する第一審原告の帳簿に記載されない取引はすべて訴外甘糟浅五郎個人の取引ないしはそれより派生したもので第一審原告の取引とはなんら関係がないものであると主張しているので証拠を調べるのに、(一)、成立に争のない乙第三、第四号証、同第五号証の一ないし三、同第六号証の一ないし四及び原審証人平塚和一の証言を綜合すれば、

(1)  第一審原告が昭和二十六年十月二十二日頃訴外在原商事株式会社に売り渡したものと認められる古銅、古銅線、代金百四十八万八千九百七十五円が第一審原告の帳簿に記載せられていないこと、

(2)  第一審原告が昭和二十六年九月四日株式会社鈴恭商店に売り渡したと認められる砲金屑代金三百万九千三百円が第一審原告の帳簿に記載せられていないこと、

(3)  昭和二十六年中に第一審原告がその取引先である楠原金属外十九名に売渡したと認められる真鋳パイプその他代金合計一五、一二四、〇七一円五〇銭(明細は乙第六号証の一ないし四記載のとおり)が第一審原告の帳簿に記載せられていないこと

がそれぞれ認められる。

(二)、次に、成立に争のない乙第八ないし第十一号証並びに弁論の全趣旨を綜合すれば第一審原告は、昭和二十六年頃から、第一審原告の得意先に対する非鉄及び鉄類の売上の一部を第一審原告の正規の帳簿に記載せず、架空の名義をもつて取引し、さらに第一審原告の売上金を清水つる、清水幹夫、高橋二郎、与津三郎などの名義で三井信託銀行本店、第一銀行横浜駅前支店などに預金して、これを裏預金と名づけていたこと

が認められる。

成立に争のない甲第五ないし第九号証、乙第七号証、原審証人片山松太郎、細田重良の各証言中右認定に反する部分は信用できない。その他本件一切の証拠を調べても右認定を覆えすに足る証拠は存在しない。

そうだとすれば、右認定事実は、まさに昭和三十年六月一日当時の法人税法第二五条第七項第三号にいうところの「当該法人の備え付ける帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ペいし、又は仮装して記載する等当該帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実の記載あること。」が認められる場合に該当するものというべく、第一審被告芝税務署長は、その事実があつたと認められる昭和二十六事業年度に遡つて青色申告書提出の承認を取り消すことができるものというべきである。よつて第一審被告芝税務署長が昭和三十年六月一日第一審原告に送達された通知書によつて、第一審原告に対する青色申告書提出の承認を昭和二十六事業年度に遡つて取り消したことに何らの違法はない。

第一審原告はさらに、第一審被告芝税務署長のなした右認定の青色申告書提出の承認の取消処分は、(イ)処分の通知書に理由が記載されていなかつた、(ロ)処分の通知書に「昭和三〇年五月 日」と記載してあり、日の記載がなかつたから、右取消処分は違法であつて取り消さるべきものであると主張している。よつて判断するに、(イ)については、本件行政処分のなされた当時の法人税法第二五条第八項によれば、本件取消処分を通知するにあたり、その理由を合わせて通知することを要しなかつたものというべきであり、(ロ)については、本件取消処分の通知書に日の記載のなかつたことは当事者間に争がないけれども、通知書に日を記載することは本件取消処分の通知の要件と解すべきではなく、単に通知を発した日を明確にするに止まるものと解すべきであるから、日附を記載しないことが、本件取消処分の取消原因たるべき瑕疵とはいい難い。(まして本件においては通知書の送達の日が昭和三十年六月一日であることについては当事者間に争がないのである。なお本件取消処分と第一審原告の主張する更正処分との関係について本件の争点と直接関係がなく、本件においては日附を記載していない点について判断するだけで十分であると考える。)よつて第一審原告主張の右(イ)(ロ)の事由は、本件取消処分を取り消すべき事由たり得ないものというべく、第一審被告芝税務署長のなした本件青色申告書提出の承認の取消処分の取消を求める第一審原告の本訴請求はすべて理由がないものとして棄却さるべきものである。

次に、第一審被告東京国税局長のなした第一審原告の審査請求の棄却決定の取消を求める第一審原告の請求について判断する。第一審原告は、第一審被告東京国税局長のなした決定には、法の要求する理由の附記がないから、これを違法として取り消すべきものであると主張する。しかして第一審被告東京国税局長がなした審査決定の通知書に、棄却の理由として、「貴社の審査請求の趣旨、経営の状況、その他を勘案して審査しますと、芝税務署長の行つた青色申告届出承認の取消処分には誤りがないと認められますので、審査の請求には理由がありません。」と記載されていたことは、当事者間に争のないところである。右理由が、原取消処分が法人税法第二五条第七項列記の取消事由のいずれにあたるかを明らかにしていない点において、審査決定の理由として十分ならざるものとせられることは免れ難いところである。しかしながら右審査決定につきいつたん抗告訴訟が提起せられるにおいては、裁判所は行政庁の附した理由の当否だけを審査するのではなく、当該審査決定が違法であるか否かにつき当該審査決定の基くところの法規全般について審査するを要するものというべきである。従つて審査決定を受けた者も、審査請求のとき主張しなかつた攻撃方法を訴訟手続において主張することを妨げないし、行政庁においてもまた当該審査決定に附した理由以外の理由を主張して、審査決定が維持さるべきものであると主張することを妨げないのである。それ故、審査決定の当否を審査する訴訟においては審査決定の結論が違法であるか否かに基いてこれを維持すべきか否かを決すべきであつて、審査決定に附してあつた理由が不備であるということだけで、審査決定を取り消すことは許されないものであるというべきである。しかして第一審被告芝税務署長のなした本件青色申告書提出承認の取消処分に、何ら違法の点がないことは前段説示したとおりであるから、右取消処分に対する審査請求を棄却した第一審被告東京国税局長の決定は結局正当であつて、これが取消を求める第一審原告の請求は理由がないものとして棄却さるべきものである。それ故、右請求を認容した原判決は失当であつて、これを取り消すべきものである。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九五条、第九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 猪俣幸一 安岡満彦)

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